こまつ座『人間合格』レビュー/太宰アソート

作家の分類で、もしも、破滅型の文豪、というカテゴリーがあれば、確実にその第一人者であろう太宰治の生涯、とりわけ彼の友人関係からの視点で描いた『人間合格』というお芝居を、こまつ座が再演するというので観にいってきた。

卒論のテーマが太宰だったという知人を誘おうかとも思ったが、専門家と一緒に行くと芝居がハズレだったときに厄介なので、太宰はそこそこたしなみます、というくらいの友人を誘って会場のサザンシアターへ。


井上ひさしの原作は未読だったけれど、『人間失格』を引いての「六葉の写真」の紹介から始まる冒頭に、気分は一気に高揚。
井上作品の特徴であるコミカルなセリフは、テンポといいリズムといい抜群で、ほかにも、『走れメロス』『晩年』などの一端が随所に織り込まれており、太宰作品のおいしいところ詰め合わせ、といった印象を受けた。


席があまりよくなかったので、役者の表情を如実に見て取れなかったが、遠目にも、太宰を演じた岡本健一は腺病質っぷりが板についていたし、そのどこか自嘲げな物言いは、わたしのイメージする太宰と一致していた。
麻薬中毒から更生中のシーンなんて、太宰の写真そっくりで、微苦笑するしかなかったくらい。

また、太宰のお目付け役だった、津軽の実家の番頭・中北さんの登場で、場面が締まってくる。
演っていたのは辻萬長というこまつ座の役者さんで、わたしは初めてだったのだが、劇中歌も津軽弁も見事にこなし、一貫して太宰たちを「更生」させる立場をとる。

戦前~戦中~戦後と、時代におもねり次々と思想を変える中北さんと、一貫して社会主義を貫く太宰の友人・佐藤との対比が面白い。

「人間みな同じ、万人平等といえるのは、たとえば、佐藤、こいつみたいに、心の底からそう信じて、そのためだけに命をはって、がんばってきたやつだけじゃないか」

太宰のこのセリフには、自身も含め、時代や体制に迎合してしまう人間の情けなさ、それも恥じ入りながらこっそりと迎合するのではなく、大手を振って勝ち馬に乗ってしまう人間の方が多いという事実、しかしそうしてしまう弱さもまた人間なんだ、という自嘲のすべてが詰まっているような気がした。


この出来だったら専門家と観ても全然問題なかったと思うくらい、本作を軽んじてしまった自分が恥ずかしかった。
by chatelaine | 2008-03-01 23:22 | STAGE

欧州大好き、映画や舞台の偏向的レビューブログ。子連れになってリスタート。最近はもっぱら子連れ旅がメイン。


by yukiko
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