『ラスト、コーション』レビュー/甘美な胸焼け

雪の降る中、友人と少し早めのバレンタイン・チョコレートを物色したあと、そのまま『ラスト、コーション』を観にいった。
過激な濡れ場ばかりが話題となっている本作、大したことなかったわと言えば嘘になるけれど、緻密なストーリー上、意味のある濡れ場なので、ほとんどいやらしさが感じられない。

それよりも、トニー・レオンの醸し出す無言の悲哀は、『インファナル・アフェア』でいやというほど味わったので言うまでもないとして、女スパイ・ワンを演じた新人女優タン・ウェイの色気はどこからくるものなのか。
あの挑みかかるような眼は、たしかに権力を持った男が好みそうである。征服したくなる女という感じ。

週間新潮のレビューにて、福田和也をして「この映画はJTが後援すべきだ」と言わしめた煙草の使い方だが、これがまた大層魅力的。
とりわけはじめての二人での食事シーンで、トニー・レオンを誘うように、挑むように煙草をふかすタン・ウェイのアップの表情が忘れられない。アジア人の女優には感じたことのない、ファム・ファタールの素質を垣間見た気がする。


【以下、ネタバレあり】






ワン(タン・ウェイ)を含む学生たちが「抗日」という正義を掲げて命を賭けたのに対し、ほとんど描かれていなかったが、敵対政権の顔役・イー(トニー・レオン)にも彼の正義があるのだろう。

イーは多くを語らず、ただワンとの激しい性交渉で自分の生を表現する。そんな寡黙で用心深い彼の殺し文句。
「私はダイヤには興味がない。君がつけた姿が見たいだけだ」
「大丈夫だ、私がいる」
ジェームズ・ボンド並みのくさいセリフだが、しかしこれでさしものワンもノックアウトされたか、すわ暗殺のチャンス、というところで「逃げて」という苦渋の寝返り。

この「逃げて」のひとことで、すべての事情を察したイーの表情の変化が秀逸!トニー・レオン最高だわ。ここだけ巻き戻して何度も観たい。


ちなみに、わたしはてっきり、ワンがスパイであると気づいたイーが、悩んだ末、ワンをベッドで絞め殺す…という展開を予測していたが、みごとに外れた。まあ、これでは『愛の流刑地』並みの出来だよね。


禁断の愛の代償として、ワンは自分と仲間の死を招き、生き残ったイーもまた、不信という、これから誰一人として人を信じられなくなるという代償を得ることだろう。
時代のうねりの中、愛と代償をいっぺんに飲み込んだような後味。
それは、濃厚なチョコレートを食べすぎたときの、甘美な胸焼けに似ている気がした。
by chatelaine | 2008-02-03 23:07 | CINEMA

欧州大好き、映画や舞台の偏向的レビューブログ。子連れになってリスタート。最近はもっぱら子連れ旅がメイン。


by yukiko
通知を受け取る