森博嗣集中月間/S&Mシリーズ

超がつくほど今更なのですが、12月から1月にかけて、夜な夜な、森博嗣の小説を読んでおりまする。この手のシリーズものは、一気に読むと、すごく気持ちいい~。

これまで「理系ミステリ」ということで敬遠したのだけど、本作が出たころにはまだ一般的でなかったコンピュータ用語も、いまやすっかりおなじみになっているし、文系人間のわたしでも別段つまづくことなくシリーズを読破。

全作品とも、深読みしたくなるタイトルと英語の副題が秀逸。
さらに、京極夏彦と双璧といわれるだけあって、登場人物の名言や、ウィットに富んだ会話もたくさん。

以下、シリーズ10作の感想を走り書き。


1.「すべてがFになる(THE PERFECT INSIDER)」
研究所の醸しだす硬質な雰囲気と、天才・真賀田四季博士が強烈な印象。冒頭の、天才と主人公・萌絵の禅問答のような会話から、本作の世界観が広がっていく。
「自分の人生を他人に干渉してもらいたい。それが、愛されたいという言葉の意味ではありませんか?」
「どこにいるのかは問題ではありません。会いたいか、会いたくないか、それが距離を決めるのよ」(真賀田四季)


2.「冷たい密室と博士たち(DOCTORS IN ISOLATED ROOM)」
前作ほど非日常感がなく、わりと普通の学園ミステリ。2作目でわかったことは、このシリーズ、「なぜ」という動機部分はさほど重視されておらず、「どうやって」を考えるタイプの作品だということ。
「だいたい、役に立たないものの方が楽しいじゃないか。 音楽だって、芸術だって、何の役にも立たない。最も役に立たないということが、数学が一番人間的で純粋な学問である証拠です。 人間だけが役に立たないことを考えるんですからね。 そもそも、僕たちは何かの役に立っていますか?」(犀川創平)

3.「笑わない数学者 (MATHEMATICAL GOODBYE)」
建物の内と外が逆転している設計という視点が面白く、のめりこんで読んだ。ちなみに、「内と外」というのは全編を貫くテーマだったりする。
館のトリックはわかったが、実はこれは前哨戦みたいなもので、結局地下にいる人物は誰なのか?という部分が最大のトリック。今回の天才数学者もまた、直接手を下した犯人ではないにせよ手ごわい。(むしろ犯人は霞んで見える…)

4.「詩的私的ジャック(JACK THE POETICAL PRIVATE)」
また密室ですか、森先生。と突っ込みながらも、実は森博嗣は密室のメカニズムはあまり頓着していないというか、犀川という登場人物を使って、従来の密室へのアンチテーゼを示している気がした4作目。
「私は甘えている」「言葉で伝えなければ気持ちは伝わらない」と自覚した萌絵のプロポーズが初々しくて甘酸っぱい。

5.「封印再度(WHO INSIDE)」
漢字と英文で韻を踏んだタイトルが抜群にセンスよく、脳内にリズミカルに残る。音だけでなく、意味も内容とリンクしているところがツボ。壷と鍵の謎も、最後の実験でなるほどとひざを打った。
エイプリルフールの「血液の病気」には犀川先生もやられた様子。いつもは淡々とした犀川の気持ちの変化が見て取れるのは、この巻だけかも?

6.「幻惑の死と使途(ILLUSION ACTS LIKE MAGIC)」
3作目同様、根本から覆される人物相関にうならされる。「名前」にこだわり、生よりも「名前」をかけたマジック。また、だんだんひどくなっていく萌絵の貧血は、何を暗喩しているのか。
「綺麗という形容詞は、たぶん、人間の生き方を形容するための言葉だ。服装とかじゃなくてね。」(犀川創平)

7.「夏のレプリカ(REPLACEABLE SUMMER)」
6作目と時系列を平行して進む物語。萌絵の親友が登場し、才女同士の友情物語かと思えば、そうでもなく、むしろ別れの物語というところか。事件の動機はほぼ書かれていないが、序盤をよく読めばさもありなん…という感じ。

8.「今はもうない(SWITCH BACK)」
マンネリ感の打破が目的なのか、第三者視点での語り口ということで、西之園嬢の客観的な様子が描かれていて新鮮。シリーズ異色作ではあるが、むかしむかしあるところに…ではじまる御伽噺のような作品。この趣向、わたしはかなり好きです。

9.「数奇にして模型(NUMERICAL MODELS)」
本物と、本物じゃないものを決めるのはなにか?オリジナルと模倣について、フィギュアというマニアックな分野で哲学論を論じる森博嗣。偉大な芸術家は変態と紙一重だと思うけど、本作の登場人物は変態度高いね…。

10.「有限と微小のパン(THE PERFECT OUTSIDER)」
1作目と対になる副題に、大いなる意味を感じずにはいられない。真賀田四季ほど「PERFECT」の形容詞が似合う人間はいないだろうな。今回もあっぱれな「OUTSIDER」ぶりだった。けれども、警察をも巻き込んだ茶番、あるいは「装飾」につきあわされた学生たちは…お疲れ様でしたとしか言いようがないな。


全10作を通して描かれているのは、主人公・萌絵が、犀川や真賀田四季との出会いによって、両親の事故死を我が事として認識し、克服していく様子。
そして、すべてを見通しているような真賀田四季もまた、この出会いで変容し、何も変わらないように見える犀川ですら、内面の凶暴な人格を飼いならしながら、萌絵に対する気持ちの変化が生じている。

「内と外」というキーワードについては、また読み返す機会を設けて、突き詰めて考えてみたいところ。でも精読の前に、次のシリーズを読み進めたい欲求が止められない!
by chatelaine | 2014-01-08 23:34 | BOOK

欧州大好き、映画や舞台の偏向的レビューブログ。子連れになってリスタート。最近はもっぱら子連れ旅がメイン。


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