『貴婦人と一角獣展』レビュー/西洋中世へのトリップ

国立新美術館で開催中の、『貴婦人と一角獣展』を観に行ってきた。
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はじめてパリに行ったときに、どうしても行きたい場所のひとつとしてピックアップし、ひとりきりで心許なく思いながら、門をくぐったクリュニー中世美術館。
この作品はパリに来ないと観られない、そう確信したタピスリー6連作が、まさか10年後の東京に揃ってやってくるとは、当時のわたしは思いもしなかっただろう。西洋中世美術の最高傑作といっても過言ではない作品だけに、本当に、よくぞ日本へ!という気持ちでいっぱい。

いつものように、息子を託児ルームに預けて夫と鑑賞したのだけど、夫は中世美術にはあまり興味ないかなと思いきや、「ガンダムUC(ユニコーン)」の元ネタだと知って、妙に食いつきがよくなった。
本作は、ジョルジュ・サンドやリルケなど多くの芸術家にインスピレーションを与えたというけれど、まさかガンダムにまで影響を与えていたとは。


会場に入るとすぐに、「貴婦人と一角獣」のディテールを映し出した映像が流れていて、その中で、リルケの「マルテの手記」が引用されていた。この文章がまた、涙が出るほど甘美。ここで一気にタピスリーの世界観に引き込まれた。

6枚のタピスリー連作をどのように見せるのか、それが唯一気がかりだったけれど、さすが『リヒテンシュタイン展』でバロック・サロンを成さしめた国立新美術館、天井高のある広い空間を使って、6枚を半円状に並べて展示してあるのだった。

これには圧巻。クリュニーの展示方法を思い出すとともに、照明のせいかホールのせいか、石造りのかの地よりも温かみがあると感じた。あそこはもっと暗くて、もっとひんやりした印象があったから、それに比べれば十分明るく、細かな部分まで観ることができた。

「触覚」「嗅覚」「味覚」「聴覚」「視覚」そして「我が唯一の望み」
どのタピスリーも貴婦人は神秘的な表情をたたえ、えもいわれぬ雰囲気。ずっとずっと、この世界に浸っていたい。
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さらに、別室の、6つのプロジェクターをうまく組み合わせた、高細精のデジタル映像による解説がとてもよかった。6連作の個々のパーツの比較はなかなかできないので、貴婦人の衣服や髪の比較、一角獣と獅子の比較、まわりに描かれた動植物の共通点などを細かく鮮やかに見ることができて、勉強になった。

他にも、同時期の美術品が併せて展示されているが、いい意味で作品数が限られていて小ぢんまりした内容だったので、美術展で終わりの方につきまとう疲労感がなかった。
こんなに作品点数がきています!と物量で押してくる展覧会も、それはひとつの特徴としていいけれど、厳選された展示規模で、内容を掘り下げて説明してくれる本展覧会の構成もありだと思う。美術展って、点数が多すぎるとどうしても最後の方は疲れてしまい、受け取り手の感性も鈍ると思うので。

また、なにげないことだけれど、他の展示を観た後に、もう一度タピスリーの広間に戻れる構成もありがたい。普通の展示構成だと、メイン作品に戻るために、動線に逆行しなくてはならないから。

最後の最後までタピスリーを味わいつくして会場を出ることができる本展は、遠い日のパリを思い出しながら、六本木で中世ヨーロッパを堪能できる、最高の時間となった。

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一番のお気に入りは「触覚」の詩。
「彼女は片方の手で、一角獣の角をつかんでいる。
その角が、もし悲しみであるならば、
悲しみとはこうも毅然としていられるものなのだろうか?」
(ライナー・マルケ・リルケ『マルテ・ラウリス・ブリッゲの手記』(塚越敏訳)より抜粋)
by chatelaine | 2013-06-16 23:45 | ART

欧州大好き、映画や舞台の偏向的レビューブログ。子連れになってリスタート。最近はもっぱら子連れ旅がメイン。


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