『テイキング サイド ~ヒトラーに翻弄された指揮者が裁かれる日~』レビュー/ナチズムと藝術

なぜか観たいお芝居というのは時期が重なるもので、1月から舞台をとばしぎみで観ているのですが、これにて当面落ち着くかと。
天王洲銀河劇場で上演中の舞台『テイキング サイド ~ヒトラーに翻弄された指揮者が裁かれる日~』を観に行ってきた。
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ナチ政権下のベルリン・フィルで指揮者をつとめた巨匠・フルトヴェングラーに平幹二郎。ドイツ敗戦後、彼とナチスとの関わりを尋問するアメリカ人将校・アーノルドに筧利夫。本作は、主に、このふたりの舌戦がみどころの密室劇である。


ナチズムと藝術というテーマは、個人的にとても興味のある内容で、レニ・リーフェンシュタールなど多くの芸術家がナチスのプロパガンダに利用されたが、このフルトヴェングラーもそうだったのか。それとも最後まで純粋な理由で演奏し続けたのか。

史実では、フルトヴェングラーはヒトラーの誕生祝いのコンサートで指揮をし、ハーケンクロイツに囲まれた異様な雰囲気の劇場で、あまりにも完璧にベートーヴェンを振ったため、伝説のコンサートとなった記録がある。本人はヒンケルに罠にかけられた、と言い張るが、客観的にみて、ナチス党員と言われてもしかたあるまい、という映像だ。いやいや指揮したのなら、そんな完璧に振らなくてもよいものを、などと凡人のわたしは思うのだが・・・。

アーノルドの「(反ナチスであったのなら)なぜドイツを出なかったのか」という問いに対して、「ドイツとドイツ国民を愛していた」「政治と芸術は分けるべきだ」と、芸術家らしい正当な主張を述べながらも、若きライバル・カラヤンの影を恐れていたことを指摘されると、とたんにばつが悪そうになるフルトヴェングラー。
わたしはカラヤンがナチ党員だったというのも初めて知ったのだけど、フルトヴェングラーは馬鹿正直で世渡り下手。カラヤンは権力好きの世渡り上手という印象がついてしまった…。


アーノルドの部下の軍人や、ベルリン・フィルのオケメンバーは、フルトヴェングラーを偉大な芸術家で、ひそかにユダヤ人を亡命させていた親ユダヤ派だと擁護する。
一方、部下たちの抵抗をおしとどめ、フルトヴェングラーのプライベートな側面から攻撃を仕掛けるアーノルドは、卑劣漢にも見えるが、それには確固たる理由がある。彼もまたユダヤ人で、ホロコーストによる同胞の死を忘れられないのである。

ここぞ、という場面でかかるベートーヴェンの曲、そしてアーノルドが執拗に断罪する理由となるホロコーストの映像、どれも鳥肌の立つ演出だ。
だれもが生きることに必死であった極限の時代の、藝術のありかたとは。答えはないが、ベートーヴェンの美しい旋律だけが残る。


この舞台を観ただけだと、ある意味、フルトヴェングラーの一面しか見ていないわけで、もっと多角的な視点から、深く知りたい人物だと思った。評伝本を読もうかな。

カラヤンとフルトヴェングラー (幻冬舎新書)

中川 右介 / 幻冬舎


by chatelaine | 2013-02-02 23:13 | STAGE

欧州大好き、映画や舞台の偏向的レビューブログ。子連れになってリスタート。最近はもっぱら子連れ旅がメイン。


by yukiko
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