『私が、生きる肌』レビュー/肌を造り、肌に溺れ

久しぶりに行った渋谷シネマライズで、『私が、生きる肌』という、変わった邦題の作品を観てきた。
おおむね予想はしていたし、期待していた部分でもあるのだけれど、アルモドバル監督らしい、倒錯した愛と復讐の物語だった。終盤で、復讐の対象者が入れ替わってくることがまたおもしろい。

d0059811_18292250.jpg

アントニオ・バンデラス演じる天才形成外科医・ロベルの自宅では、ベラという名の全身タイツの女性が、監禁生活を送っている。監視カメラごしに姿を見ると、神経質で偏執的な行動をとっており、最初は単純に、ロベルの患者かな?と思われるのだが…。

「彼女」は、なぜ監禁されているのか。なぜ全身タイツ姿なのか。ロベルとベラの過去はいかに。
話が進むにつれ、ロベルによる、正気とは思えない、密室の中での壮大で歪んだ実験が暴かれてゆく。

d0059811_18302838.jpg

この「実験」は、もともと、ロベルの娘を傷つけた男への憎しみから始まった復讐のはずなのに、最終的には愛情へと変わっていってしまう。
それは、その男の顔を、亡き妻そっくりに仕立て上げたことで、徐々にロベルの中で膨らんでいった欲望。ベラの寝室での姿をじっと見つめるロベルの表情は、抑えた欲望がちらちらと見え隠れし、バンデラスの妖しいフェロモンの真骨頂である。

事故で妻を亡くし、さらに娘を失った過程で、冷静に仕事をこなすように見えたロベルも、実は精神が蝕まれていたのか、それとも本来の性癖なのか・・・。
性別を超えて、亡き妻の代役を創造したつもりが、代役に溺れるという倒錯した展開に、さらに追い討ちをかける裏切りも発生し、なんだか見ていて背筋がぞわっとするような、けれども美しいものには毒がある、そんな印象の作品だった。
(しかし手術で声帯も変えられるのだろうか?)

それにしても、ロベルの医者としての腕は確かなのに、ほんとうに女運がないこと・・・。妻には浮気され、娘には強姦魔と間違われ、「彼女」にも裏切られ、気の毒なことである。

d0059811_1831914.jpg

さて、監禁された美しい女性・ベラを演じているのはエレナ・アナヤ。作品タイトルからも、美しい肌つや感は必須なわけであるが、なかなかに妖艶な肢体をさらけ出している。
つくりものの美しい肌が憎しみに染まるとき・・・ラストの実母との邂逅には、絶望的な「彼」の状況の中に、一縷の光を見た気がした。
by chatelaine | 2012-06-01 23:24 | CINEMA

欧州大好き、映画や舞台の偏向的レビューブログ。子連れになってリスタート。最近はもっぱら子連れ旅がメイン。


by yukiko
更新通知を受け取る