『ハンドダウンキッチン』レビュー/ステマのステマ

渋谷PARCO劇場で上演された『ハンドダウンキッチン』という舞台を観に行った。
主演に仲村トオル。昨年の『奇ッ怪』という舞台でも感じたが、彼はすっとぼけた表情と真剣な表情のコントラストがとてもいい。
その姉役でYOUが出演しており、彼女の舞台は初めてだったので注目していたのだが、生真面目な役柄だったので、エキセントリックさが見たかったわたしとしては、少し物足りなかったかも。

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山奥にある話題のレストラン「山猫」のオーナーシェフ・七島誠(仲村トオル)のもとで働こうとやってきた、若手シェフの関谷(柄本佑)。関谷が「山猫」のスタッフや、取材のライターと一日を過ごす中で、「人気レストラン」の本当の姿が明らかになってゆくというストーリー。
インターネットでステマ問題などが取りざたされる昨今、本作は「ステマのステマ」なのではないかと思うほど、タイムリーでよくできた話である。

世間の評判とはなにか?
客の期待に応えるとはなにか?
マスコミは共犯なのか?
騙される大衆が悪いのか?

誠たちのやり方に反対し、「やっぱりおいしいものが正しいはずだ」という関谷。
それに対し、誠は、「ではおいしいものとは何か?」と切り返す。
客がおいしいと思う料理を出す。客が「山猫」に求める料理を出す。たとえ店のシェフが虚像であっても、客が入っている事実は変わらない。
と、次第に饒舌になる誠。


この「山猫」のスタイルに居場所を求め、愛着を感じるスタッフもいれば、終盤で、才能が枯渇して飽きてしまった、と去るスタッフもいる。
一方で、姉の梢(YOU)は、このまま虚構のレストランを貫き通していいはずはない、と悩む。過去の事件で、誠が屈折したのは自分の責任だと思っているからだ。

その事件のせいで、誠の料理人になるという夢は絶たれたが、虚構のレストラン「山猫」を人気店に仕立て上げ、親の代にはできなかった、店に客を呼ぶということを成し遂げた。
しかし、誠の夢は叶ったように見えても、お酒とギャンブルにおぼれるさまは、心底この状況に満足しているとは思えない。料理のできない自分を呪い、評判に踊らされる客を軽蔑しながら、ニヒルに生きている。

ラスト、「山猫」の初代店主である誠の父親(江守徹)がずっと捜し求めていた、亡き妻の隠し味が、「味の素」だということも皮肉である。
おいしい、と思うことに隠された矛盾と皮肉が、うまく描かれた作品だったと思う。
by chatelaine | 2012-05-24 23:13 | STAGE

欧州大好き、映画や舞台の偏向的レビューブログ。子連れになってリスタート。最近はもっぱら子連れ旅がメイン。


by yukiko
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