マリインスキーオペラ『イーゴリ公』レビュー

縁あって、現在来日中のマリインスキーオペラ『イーゴリ公』のチケットをいただいた。
久しぶりの正統派オペラ!それもわりと良席だったので、かなり浮かれた気分で会場のNHKホールへ。

NHKホールは殺伐とした内装であまり好きではないけれど、それでも女性として、オペラは華やかに装おって行けることが、楽しみのひとつだったりする。あとは、幕間のシャンパン。そして、連れは知的なムードを漂わせた異性に越したことはないのだが、わたしの知っている唯一のオペラ通の男性は来られないということで、結局、気取るのはやめにして女友達と鑑賞。


ロシアオペラは初めてで、本作もどんなストーリーだかまったく知らず、予習としてはあらすじをナナメ読みしただけ、CMなどで有名な曲「だったん人の踊り」だけはわかるかも…という程度の素人観劇だったのだが、もう、一幕目の合唱から、圧巻のひとこと。

舞台が狭く見えるほどのエキストラは、総勢で40名はいただろうか。彼らの、イーゴリ公を讃える合唱は大迫力で、さらには出征シーンに本物の馬まで出てきちゃうから、ますます臨場感があふれる。
よく考えれば、これまで観たオペラには宮廷ものがなかったので、大勢での合唱シーンというのは、初体験なのだった。アリアもいいのだけど、劇場で聴くには、やっぱりこういう迫力のコーラスが、オペラの醍醐味だなあと。


一幕のラストを飾るのが、「だったん人の踊り」
すばらしく立体感のあるダイナミックな動きなのに、ディティールは繊細。捕虜として連れてこられた女たちが故郷を偲んで歌う透明な声が、心に染み入る。そこに被せるように、遊牧民族らしさあふれる猛々しい銅鑼の音。
歌に演奏にバレエに演技、これこそまさに、綜合藝術の極みである。

二幕目はさほど盛り上がりには欠けるものの、イーゴリ公が遠征から帰るのを待つ公妃のアリアに、遠くから、「敵国のハーンが攻めてくる」という憂いたっぷりの声がかぶさるシーンが、寂寥感を出していて胸を打つ。


ところが…幕間に飲んだシャンパンがほどよく消化され、さあここからいよいよかと思ったところで、敵方のハーンの幕舎を脱走したイーゴリ公がロシアに帰還したところで、ジ・エンド。

急転直下のラストに、え、ここで終わりなの?という唐突感は否めない。
イーゴリ公とハーン、二人の対決のゆくえは?幕舎に残してきたイーゴリ公の息子と、ハーンの娘の恋愛は?イーゴリ公の留守の間に宮廷のっとりを画策していた義兄のたくらみは?
ハテナマークがいくつも残ったまま、ストーリーは腑に落ちないけれども、パフォーマンスはすばらしかったというカーテンコールを贈りながら、会場をあとに。

こんな不可解な終わり方なら、いっそ一幕仕立てで、「だったん人の踊り」をクライマックスに持ってくるのがベストでは?と、友人と話しながら帰路につく。


あとから知ったことだが、この歌劇、そもそも未完の作品とのこと。
しかし、ミケランジェロの「ロンダーニのピエタ」やモーツァルトの「レクイエム」など、未完の芸術は好きなわたしだが、やっぱりこのラストだけは、受け入れがたいものがあるなあ…。
by chatelaine | 2008-02-02 23:40 | STAGE

欧州大好き、映画や舞台の偏向的レビューブログ。子連れになってリスタート。最近はもっぱら子連れ旅がメイン。


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