正と負の影響

毒気に当たらないよう、ちびりちびりと読み進めて、ようやくフィナーレを迎えることができた。

三島由紀夫『禁色(きんじき)』新潮文庫 読了

いまさら私が書くようなことではないが、三島の文章は、読む人にとって好き嫌いのわかれるところだと思う。『金閣寺』に感化されて小説家を目指すようになった知人もいれば、『仮面の告白』を読んで嘔吐したという知人もいるぐらい、その影響の幅は広い。

けれども、かつての日本の文壇に、このような美文体でもって表現する人がいたのだという、その存在だけで、彼はひとつの大きな意味あいを持っている。そして、私の読書歴の中でも、綺羅星のような存在であることは否めない。


本作はとりわけ、同性愛というテーマからして、読むのに躊躇する要素が多い。が、三島作品の中では、主人公が能動的に動いていく方なので、読むうちに続きが気になってくる。この、「続きが気になる」という感覚は、三島作品では、めったにないことなのだ。

それに、読んでいて一番気分の悪くなるシーンは、同性愛に関する部分ではなくて、人類繁栄のためには必須である、出産シーンであることも、皮肉と言えば皮肉。三島の書く出産のシーンは、こと細かな映像なんかよりも、よっぽどリアルで、血と肉のにおいがプンとただよってくる。
感受性の強い方には、とりわけ妊娠中・生理中に読むのはオススメできない。


美貌の同性愛者・悠一を使い、醜い自分を愚弄した女性への復讐を果たした老作家・檜俊輔が、だんだんと悠一に惹かれ、愛しながら嫉妬もし、死に至るという心理が、どうにも『ヴェニスに死す』のアッシェンバッハと重なってくる。

檜俊輔に代弁させた美学講座も含め、「美とは」「醜とは」「芸術とは」という命題を追い求めていく立場にある人には、本書は必読書であろう。


ところで、ダンサーの伊藤キムは、本作をどのように昇華して、コンテンポラリーダンスに反映させたのだろう。…再演を切に祈る。
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三島のシニシズム
「人間をいちばん残酷にするものは、愛されているという意識だよ。愛されない人間の残酷さなんて知れたものだ。たとえば、悠ちゃん、ヒューマニストというやつはきまって醜男(ぶおとこ)だ」
ここでニヤリとしてしまった私は、歪んでいるのだろうか…。
by chatelaine | 2005-12-12 23:25 | BOOK

◆◆管理人:yukiko ◆◆欧州大好き、映画や舞台の偏向的レビューブログ。子連れになってリスタート。最近はもっぱら子連れ旅がメイン。


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