『最強のふたり』レビュー/マイノリティ同士の人生賛歌

フランス映画でこんなに万人受けするなんて珍しいのでは?と思えるほど、どのレビューでも好評な『最強のふたり』という作品を観に行った。

事故で、首から下が麻痺した富豪の老人を、移民で貧困層出身の若者が介護するという、実話ベースのストーリー。「ギャップのあるふたりが仲良くなっていく」という設定は、なんだか既視感がある(ジャック・ニコルソンとモーガン・フリーマンの『最高の人生の見つけ方』と似ている)ような気がするのだけれど、フィリップとドリス、暮らしぶりも音楽の趣味も生活スタイルも、全く異なるふたりのウィットに富んだ掛け合いが愉快で、つい引き込まれてしまう。
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通り一遍の介護に飽き飽きしているフィリップは、自分のことを障害者だからといって特別視しないドリスに興味を抱き、介護者として試験採用する。破天荒だが茶目っ気のあるドリスは、重厚な雰囲気の屋敷の中で、冗談や下ネタを織り交ぜながら、ムードメーカーのような存在になっていく。
フィリップとも意気投合し、違法駐車をこらしめたり、絵を高値で売ったり、警官をコケにしたりという生活の中で、知らず知らずのうちに、ドリスは上流社会の教養を身につけ、フィリップは制限された暮らしの中で、生きる楽しみを見出していくのが、観ていて心地よい。

また、フィリップやドリスはもちろん、屋敷に住み込んでいる人たちも、どんな状況でも恋を楽しむのがパリらしいなあと。話の中に無理に恋愛ネタを入れている感じがなく、生活の中に自然と恋愛があるのである。なんだか豊かだなあ。
そして、深夜のカフェで、ふたりが腹を割って話すシーンの舞台は、おそらく「ドゥ・マゴ」だったのではと思うけれども、このシーンだけで、パリに行きたい気持ちがふつふつと沸いてきた。久しぶりに深夜にコーヒーで語らいたいものだ。
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一方で、ふたりの痛快な生活の中にも、ドリスを通して、はしばしでパリが抱える格差社会を見せつけられる。
花の都パリは、移民の街でもある。美しい邸宅やショップやカフェが並ぶ一方、スラム街での暮らしやギャングの問題があるということ。ドリスが悲しげな瞳で、「(家庭環境が)複雑なんだよ」と言ったように、暴力と貧困が、この街にも、ある。

そういう社会で育ち、家族の苦労も見てきたドリスだからこそ、フィリップの孤独や痛み、ひいてはアウトサイダーやマイノリティならではの痛みに、深い部分で寄り添うことができたのではないかなと思う。
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終盤、「この仕事はきみの生涯の仕事ではない」と、ドリスに別れを切り出したフィリップは、どんな気持ちだったろうか。枠に納まりきらない介護者だったからこそ好きになれたのに、自分の手元に置いておくにはもったいないと手放す寂しさは、はかりしれない。

警察を相手に、ふたりの息の合った「お芝居」で幕を開けた本作は、どこまでも一緒に走ってゆけそうなふたりでありながら、単なるハッピーエンドではない、大人の別れがじんわりしみる作品だった。
by chatelaine | 2012-09-29 23:51 | シネマ

◆◆管理人:yukiko ◆◆欧州大好き、映画や舞台の偏向的レビューブログ。子連れになってリスタート。最近はもっぱら子連れ旅がメイン。


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