『灼熱の魂』レビュー/「1+1=1」の悲劇

予告編で気になっていた『灼熱の魂』という映画を観たら、これが観ている方の魂まで焼くほどの、すばらしくドラマチックなフィクションで、久しぶりに放心状態になってしまった。

本作は、遺言状から紐解くミステリー、というにはあまりに過酷で無慈悲な環境をくぐり抜けた、ある母親の半生の物語である。
それは、同じ女性として目を覆いたくなるほど苛烈で、私にとってはどこか遠い国のできごとなのだけれども、それでも、子どもを産んだあの瞬間に感じる気持ちへの共感と、「子を産む性」の持つどうしようもないむごさに魂を揺さぶられた。

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レディオヘッドのあやうい曲と、中東の、どこか不穏な空気のただよう部屋に集められた少年の射抜くような視線、さらには意味ありげなかかとのタトゥーというオープニングに始まり、場面は変わって現代のカナダへ。

プールサイドで母親が倒れ、公証人の立会いの下、遺言を受ける双子の姉弟・ジャンヌとシモン。
姉へ「父をさがして、この手紙を渡して」
弟へ「兄をさがして、この手紙を渡して」
それぞれの遺言を果たすため、姉弟は、死んだと言われていた父と、存在すら知らされていなかった兄を捜すことになり、それは奇しくも母のふるさとをたどることになる。

そして物語は、現代の双子の視点と、母親であるナワル・マルワンの若き日の視点がオーバーラップしながら、交互に描き出される。話の節目ごとに入る、小説でいうところの章にあたるようなタイトルが、気が利いていて、原作が戯曲だと聞いて納得。

若き日の母親、ナワルは、宗教的に対立する相手との子を妊娠し、出産することは許されるも、産んだ直後に息子とは引き離される。いつか息子を迎えに行くと決意しながらも、内戦に翻弄され、死と隣り合わせの日々。

そしてナワルは、一つの事件を契機にある政治家を暗殺するのだが、政治犯として断罪されるとわかっていながら、なぜ自死を選ばなかったのか。また獄中での15年間、人間としての尊厳を踏みにじられるような拷問を受けながらも、彼女の精神を支えたものはなんだったのか。
引き離された息子に会うため?それとも?

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双子が紐解いていく母の歴史は重く、真実は過酷だ。
自分たちは刑務所で拷問の結果生まれた子であり、さらに、父と兄の2人を探すはずが、実は1人だった、と理解したときの双子の表情。オイディプスのごとく冷酷な結末は、弟シモンが「知りたくない!」と反発する気持ちをあざけるかのようだ。

そして、ショックを受けた双子がプールに飛び込んで癒しを求めるシーンは、まるで母の胎内の描写で、特に、双子たちが抱き合うシーンはひとつの卵のよう。ここでも2人は1つ、を暗示している。
しかし直観ながら思う。彼らは、強く生きるだろう、母のように、強く。

ラスト、しかるべき父と兄に渡った遺言の手紙は、これ以上ないほどのメッセージを果たす。
この手紙は復讐ではなく愛だと思いたい。復讐を断ち切るための愛だと。


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2通の手紙、抜粋。

父親へ
あなたは知らないが、あの子たちはあなたが父親であることを知っている。
美しいわたしのこどもたち。
私はすぐに気づいたのに、あなたは気づかなかった。
あなたの娼婦

息子へ
これは拷問人への手紙ではない。息子への手紙だ。
あなたが生まれたときに決めたのだ。なにがあってもあなたを愛すると。
あなたの母

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by chatelaine | 2012-01-18 23:08 | CINEMA

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