ETV特集『‘斜陽’への旅』レビュー

深夜のNHKで放送されていた『‘斜陽’への旅 ~太宰治と太田静子の真実~』というETV特集が、とても興味深くて、眠い目をこすりながら、ついつい見入ってしまった。

番組は、太宰生誕100年を祝してか、「斜陽」のモデルともなった、太宰とその愛人だった太田静子との物語を、二人の娘である太田治子さんが紐解いてゆく、という体裁をとっている。

太宰の代表作ともいえる「斜陽」に、モデルとなった女性がいるなんて知らなかったが、それにしても、自身の両親について、清濁含め、こんな衆目の番組で調べていくなんて、治子さんという人は、なんて勇気のある女性なんだろうと嘆息した。

彼女は、太宰の出身地・金木のことを、こころのふるさと、という言葉でよんでいた。物理的には行こうと思えばすぐに行けるだろうに、金木に行く心の準備が整うまで、なんて遠いのか。
太宰の生家である「斜陽館」に入るときも、ここはいまでは観光地なのだけれど、それでも愛人の子が本家に入るなんて、とためらっている様子がうかがえた。

「故郷は遠きにありて思うもの」と、室生犀星の詩を引用していた治子さんが、ああこの人はやっぱり作家の娘なんだなと、印象的だった。


また、番組では、太宰と静子の往復書簡が初公開されているのだが、ここでの太宰の文章は、まったく情けない男!というのが正直な感想。
(この情けない書簡を大真面目に解説する東大教授、という構図がまたおもしろい)
静子の要求に対して、とにかく言い訳、ひたすら低姿勢、優柔不断。でも、原稿用紙の欄外には、「コヒシイ」というひとこと。

こういうのを、殺し文句というのだろうか。
静子は、同じ作家(を目指すもの)として、太宰のその稀有な才能に惹かれたんだろうか。才能に惹かれあうというのは美談だし、わからなくもないけれど、実際はとても孤独で、きびしい恋だったのではないか。

それにしても、久しぶりに文学というものにひたった、秋の夜だった。
斜陽館、桜の時期に、ぜひ行ってみたいところである。
by chatelaine | 2009-11-07 23:42 | BOOK

欧州大好き、映画や舞台の偏向的レビューブログ。子連れになってリスタート。最近はもっぱら子連れ旅がメイン。


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